800万円を寝かせるコスト。倒産防止共済を再点検する
当たり前だった「節税の王道」に潜む見落とし
経営セーフティ共済(倒産防止共済)といえば、年間最大240万円、累計800万円まで損金算入できる、いわば「節税の定番」です。
利益が大きく出た年に掛金を計上し、退職金支給時や赤字の年など、出口で利益とぶつけて解約する。
こうした活用法は、税理士から経営者への提案として広く行われてきました。
もちろん、この制度には本来、取引先倒産による連鎖倒産を防ぐという重要な趣旨があります。
さらに、資金繰りの安全網としての機能もあります。
ただ、それでもなお、いま改めて考えたいことがあります。
その800万円、本当に“寝かせておく”のが最善でしょうか。
800万円が「利息を生まない」という現実
倒産防止共済に積み立てた800万円は、基本的にそれ自体が増えるわけではありません。
節税効果はあるものの、積み立てた元本そのものは運用されず、利息もつきません。
金利がほとんどない時代には、この点はそれほど意識されませんでした。
しかし、これから「金利のある世界」に戻っていくなら話は変わります。
預金金利や債券利回り、インデックス運用など、低リスクでも一定のリターンが見込める環境では、
“無利息で資金を固定すること”そのものがコストになります。
つまり、倒産防止共済の問題は「損か得か」ではなく、
機会損失を含めて見たときに本当に合理的かという点にあります。
800万円を別の形で持っていたらどうなるか
たとえば、800万円を別の手段で25年間保有した場合を考えてみます。
- 倒産防止共済:800万円のまま
- 年1%の定期預金(税引後):約975.6万円
- 年2%で25年運用(NISAなど非課税):約1,312.5万円
つまり、25年という長い時間をかけると、
- 定期預金でも 約175.6万円
- 年2%運用なら 約512.5万円
の差が出ます。
倒産防止共済の節税効果は、実効税率30%前後なら
800万円 × 30% = 約240万円
ですから、短期ではこの節税メリットが非常に大きく見えます。
しかし、資金を長期間固定するほど、運用との差はじわじわ広がっていきます。
何年くらいで差が見えてくるのか
25年後だけだと遠いので、年数ごとに見るとこうなります。
元本800万円で比較した場合です。
年1%の定期預金(税引後・年0.79685%相当)
- 5年後:約832.5万円
- 10年後:約866.2万円
- 15年後:約901.2万円
- 20年後:約937.7万円
- 25年後:約975.6万円
年2%運用(NISA・非課税)
- 5年後:約883.3万円
- 10年後:約975.2万円
- 15年後:約1,076.7万円
- 20年後:約1,189.0万円
- 25年後:約1,312.5万円
増加額で見ると、年2%でも
- 5年で約83万円
- 10年で約175万円
- 15年で約277万円
- 20年で約389万円
- 25年で約512万円
です。
つまり、2%という控えめな前提でも、15年、20年と時間が経つと無視できない差になります。
節税額だけを見てはいけない
倒産防止共済の魅力は、何といっても損金算入による即効性です。
利益が出た年にキャッシュアウトを伴って課税所得を圧縮できるため、資金繰りや税負担の平準化には確かに役立ちます。
ただし、その節税はあくまで課税の繰延べです。
解約時には益金計上されるため、出口戦略なしにただ積み上げるだけでは、思ったほど有利にならないこともあります。
そこに加えて、今後はもう一つの視点が必要です。
その800万円を固定することで、どれだけ資金効率を落としているか。
この視点がないまま、「利益が出たからとりあえず倒産防止共済」という判断を続けるのは危険です。
これからの経営者に必要なのは「節税」より「資本効率」
これからの時代は、単に税金を減らすことよりも、
手元資金をどこに置くのが最も合理的かを考える必要があります。
- 倒産防止共済で課税を先送りするのか
- 手元流動性を厚く持つのか
- 定期預金や債券で安全性を重視するのか
- NISAなどで長期の資産形成に回すのか
- あるいは事業投資に振り向けるのか
大切なのは、制度を使うこと自体ではなく、
そのお金が最も働く場所はどこかを考えることです。
倒産防止共済は、今でも有効な制度です。
ただし、それは「常に正解」なのではなく、
出口設計があるとき、または資金繰りの安全網として必要なときに強い制度だと捉えるべきでしょう。
まとめ
倒産防止共済は、たしかに優れた制度です。
しかし、思考停止で800万円を積み上げ続けることが、常に正しいとは限りません。
金利のある世界では、判断基準は変わります。
「いくら節税できたか」だけでなく、
「そのキャッシュが本来どれだけ増えたはずか」まで考える。
これからは、そんな視点で制度を使い分ける時代ではないでしょうか。