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税理士が安倍政権を振り返ってみた

はじめに

安倍首相が2020年8月28日に辞任を表明されたため、約7年8カ月続いた長期政権が幕を閉じます。佐藤栄作の記録を超えて、歴代最長政権を築きました。長い分、色々思う事もあるので、ここで自分なりに総括して、次に気持ちを切り替えたいなと思います。

 

日本人は総括が苦手

日本人は空気に縛られる行動様式が節々で見られます(山本七平:空気の研究)。

 

思い返せば、先の大戦では「鬼畜米英」が数夜にして「アメリカ様」に変わり、軍部の暴走に気づかず戦争を煽った新聞社もこの反省をしないままいつの間にかここまできました(むのたけじ)。マスコミは今でも悪い風習を受け継いでいます。国民も国民で、東条英機の家には戦争に踏み切れない軍部を腰抜けと揶揄した手紙などがたくさん届いたそうです。

 

イラク戦争では、英国のブレア元首相が謝罪し、米国のパウエル国務長官も「人生の汚点」と表明、その他各国の首脳陣が謝罪や反省を表明しているにも関わらず、これを支持した日本政府、自称保守論壇はイラク戦争を総括する気配はありません。当時の小泉首相は、現在原発反対の立場を表明していますが、イラク戦争の件は一貫して正当化しています。安倍首相も「大量破壊兵器をもっていないことを証明できないフセインが悪い」と発言していました。これは悪魔の証明なので論外なんですが、どうも日本には間違ってたと言えない(又は許されない)空気でもあるかのようです。

 

政治は、その時々の空気に流されず、国民がきちんと総括する責任があります。国民は政治権力の責任主体という感覚が日本人にはないかもしれませんが、国民主権とはそういうものです。

というわけで、安倍政権の歴史や政策、不文律を振り返りたいと思います。

安倍政権の足跡

2012年12月:第二次安倍政権発足

2013年12月:国家安全保障会議(NSC)発足、特定秘密保護法成立、靖国神社参拝

2014年4月:消費税率8%に引き上げ

2014年5月:内閣人事局発足

2015年9月:安保法制成立

2016年11月:就任前のトランプ大統領を電撃訪問

2016年12月:TPP承認、関連法成立

2017年4月:消費増税の延期

2017年5月:憲法9条に自衛隊明記の改憲を表明

2017年6月:共謀罪法成立

2018年6月:働き方改革一括法成立

2018年7月:IR法成立

2018年12月:沖縄県名護市辺野古沿岸部に土砂投入

2019年4月:明仁天皇体位、徳仁天皇即位

2019年10月:消費税率10%に引き上げ

2020年8月:辞意を表明

 

中野晃一氏が指摘していましたが、振り返ってみると、安保法制や共謀罪法以降の政策は財界・業界がやってほしいことにほぼ邁進していきます。ここには書いてないですが入管法改正の外国人労働の話もそうです。

 

安倍首相からすると、安保法制、共謀罪である程度やりきってしまい、それ以降は財界・業界が喜ぶことをひたすらやって政権を維持してきたように思います。その中でのカジノ、オリンピック、Gotoキャンペーンでした。

 

こう見ると、安保法制・共謀罪までの前半と、それ以降の後半で、政策の特徴が異なるのが伺えます。前半は安倍首相のプリンシプルが伺える政策が見られ、後半は政権維持を優先するための政策です、後半で本人に首相、リーダーとしてのモチベーション、覚悟があったのかは疑問に思います。

 

そういえば、いつの間にかアベノミクスの3本目の矢(成長戦略)は全く報道されなくなりましたが、成長戦略で残ってるのがカジノしかないというのは悲惨に思います。

 

東京オリンピックもインバウンドを呼び込み、地方にカジノ作り、アジアの富裕層を取り込むという政策は、安倍首相の立場(ナショナリスト)の政策でないように思います。安倍首相自身も何のためにやってるんだろうという思いはあったのかもしれません。まぁ財界・業界のためなんですが…。

 

このような文脈で見ると、もしかしたら彼自身のモチベーションを保つために改憲、最長記録が支えになっていたかもしれません。2017年の共謀罪以降、実際のエンジンは経産省の今井尚哉や菅官房長官で、安倍首相が舵を握っていなかったように思います。

アベノマスクもそうでしょう。これも恐らく今井尚哉マターですが、こういう雑な仕事を止められない安倍政権になっていきました。

 

ドイツと比較すると、シュレイダー首相が断行した構造改革は、彼が辞任した数年後に成果がでました。その恩恵を受けたのがメルケルの政権です。時の政権を維持するための政策ではなく、次の世代のための成長戦略を行ったシュレイダー首相。本来政治家はこうあるべきですね(多分彼ももっと長くやりたかったのでしょうが…)。

 

アベノミクスの3本目の矢、リーダーとして、もっとプロセスを明確にして、国民に日本の進む道を示してほしかったですね。自民党のCMで「この道を。力強く、前へ。」とあるのですが、僕にはこの道がどの道か、最後までよく分かりませんでした。残念です。

昨年、韓国にもイタリアにも個人別GDPは抜かれました。果たしてアベノミクスは成功だったのでしょうか。

安倍政権が破った不文律

  • 内閣法制協長官人事
  • NHK予算案(2014年、2015年、2016年)
  • NHK経営委員人事
  • 公正取引委員会委員長人事
  • 原子力規制委員会委員人事
  • 日銀総裁人事
  • 憲法53条に基づいた国会召集の拒否
  • 総理単独取材の輪番制を無視
  • 首相記者会見での質問の事前提出
  • 公文書の廃棄、改竄

 

これは政策以前の話ですが、こう眺めてみると色々なものを破ってきました。優しい言い方をすると「安倍政権って超リベラルですね」で終わりなんですが、犯罪や違憲も入っていますので許されることではないでしょう。特徴としては「書いてないから破ってもいい」が通ってしまうレジームが出来上がりました。これを通してしまう国民のレベルになりました。統治権力を規制するルールというのは、書いていないことはやってはだめでしょう。

 

公文書を廃棄する先進国は、もはや先進国ではないですし、法治国家としての日本はもう死んでます。本来安倍首相は逮捕されてしまう人なんですが、恐らく検察は逮捕しないでしょう。日本が法治国家じゃなくて良かったですねと思います。

 

このレジームは次の政権に引き継いではいけないのですが、引き継がれるのでしょうね。情けなすぎて、ここには特にコメントがありません。税理士でも安倍首相を評価している方は多いと思いますが、法律家としてこれらのレジティマシ―(正統性)を主張できる論理があれば教えて頂きたいものです。

私は未来永劫無理ですね。

 

最近、コロナのせいで(おかげで?)首相会見の茶番問題が明るみになりましたが、これに関しては、社会学者の橋爪大三郎さんが、とてもいい文章を書いていますのでそちらをご一読下さい。

 

個人的に強く記憶に残っていること

安倍首相は元々ノンポリに近かったと神戸製鋼時代の知人が証言しています。議員になってから「日本はアングロサクソンについていけば100年安泰」とか言っていた故岡崎久彦らの指導を受けたといいます。

 

戦後、基本的に日本は対米従属路線を強化していますが、よくよく観察してみると、この姿勢の政権(や政治家)を支持する人を、なぜか今は右翼とか保守とか呼んでいます。この路線を批判すると左翼と呼ばれます。今や日本はファッション右翼、ファッション左翼がはびこっていますが、本来の右翼、左翼とは全く違うものです。香港の周庭(アグネスチョウ)が「日本の右とか左ってしょうもないですね」みたいなことを言っていたそうですが、まさか香港の学生に言われてしまうとは…おっしゃる通りで情けない話です。

 

この安倍首相ですが、平成27年4月28日、米国連邦議会上下両院合同会議において演説を行い、その中で「日本にとって、アメリカとの出会いとは、すなわち民主主義との遭遇でした。」というスピーチがありました。

これはアメリカへのおべっか演説なんですが、法務大臣の森まさこがこのスピーチが終わった後、Twitterで絶賛していたのを覚えています。彼女も当時からおべっかして今があります。

 

それはどうでもいいとして、この2年前の平成25年10月、美智子様が宮内庁記者クラブの質問に文書で回答した中で、下記のように述べられました。

 

「今年は憲法をめぐり、例年に増して盛んな論議が取り交わされていたように感じます。主に新聞紙上でこうした論議に触れながら、かつて、あきる野市の五日市を訪れた時、郷土館で見せて頂いた『五日市憲法草案』のことをしきりに思い出しておりました。
明治憲法の交付(明治22年)に先立ち、地域の小学校の教員、地主や農民が、寄り合い、討議を重ねて書き上げた民間の憲法草案で、基本的人権の尊重や教育の自由の保障及び教育を受ける義務、法の下の平等、更に言論の自由、信教の自由など、204条が書かれており、地方自治権等についても記されています。
当時これに類する民間の憲法草案が、日本各地の少なくとも40数か所で作られていたと聞きましたが、近代日本の黎明期に生きた人々の、政治参加への強い意欲や、自国の未来にかけた熱い願いに触れ、深い感銘を覚えたことでした。
長い鎖国を経た19世紀末の日本で、市井の人々の間に既に育っていた民権意識を記録するものとして、世界でも珍しい文化遺産ではないかと思います」(宮内庁HPより)

 

僕は、この安倍演説を聞いて、上記の美智子様の五日市憲法草案の話を思い出しました。アメリカとの出会いは民主主義との遭遇ではないでしょう。

 

この安倍演説はイデオロギー的に突っ込みどころ満載なので、本来、本物の右翼や左翼は怒るところです。右翼・保守とは対米従属のことではないでしょう。民主主義のシステムもアメリカに所与されたものではないでしょう。私の知る中では、この議論は熟成されずに終わって残念に思いました。

 

その一方で、美智子様は本当に聡明な方だなと思いましたし、日本の道を示してくれるのはアベノミクスではなく、やはり皇室なのかなと感じました。正直それまでは皇室にあまり興味がありませんでしたが、今は少しずつ勉強しています。

他にもいくつも安倍首相の思い出はあるのですが、これで終わろうと思います。政策の個別的な総括は自分の胸の中でやります。

 

次は菅首相でほぼ確だと思います。その次は岸田氏→河野氏(次に党の3役をやったら)かなと思っています。菅首相と言えばふるさと納税ですが、これについても書きたいことはあります。上記の不文律は引き継がずに頑張ってほしいです。

そして、安倍首相、ひとまずお疲れ様でした。